ランドフスカ没後50年コンサート

日曜日。松本記念音楽迎賓館にて、
昨年、没後50年だった、ワンダ・ランドフスカを記念するコンサートが行われました。
ランドフスカの演奏スタイルの流れをくむチェンバリスト・風間千寿子さんの、
ランドフスカが理想を追求し、当時のヨーロッパ最高峰のピアノメーカー・
プレイエル社に製作させた「ランドフスカ・モデル」のモダンチェンバロでの演奏でした。

ワンダ・ランドフスカとは・・・
彼女の名前を知らないチェンバロ弾きは、いません!
彼女がいなければ、チェンバロは永遠に音楽界から葬り去られたままだった・・・
そんな、チェンバロ復興の立役者です。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

えー、ちょっぴり解説いたしますと・・・
現在私たちが弾いているチェンバロは、「ヒストリカルチェンバロ」といい、
バロック時代に作られたチェンバロを、正確にコピーしたもの(材質も寸法も)です。

ところが、チェンバロが復興したての頃は、
産業革命の頃からの、古いものは改良されるべき、との考えのもと、
バッハやヴィヴァルディが見たら
卒倒しそうな「機械的な」チェンバロが作られました。
ピアノの製作技術を競っていた楽器メーカーが、
鉄骨のフレームに太~い弦を張り、
それを革製の分厚いプレクトルム(爪)で弾くように、そして
5本も6本もペダルがついていて、
それを踏んだり離したりすることで、
瞬時に音色を変えられるように 設計された楽器でした。
そのような楽器を現在では「モダンチェンバロ」と呼んでいます。

その、モダンチェンバロを持って、世界各国を演奏して回ったのが、
ワンダ・ランドフスカ その人でした。
若いころに既に、ピアノでのバッハ演奏で名声を得ていましたが、
「バッハはチェンバロでなくてはいけない」と、
楽器メーカーに、独自の楽器を作らせることまでして、
自身の音楽の理想を追求したのでした。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

さて、風間さんの演奏では、前半にラヴェルのピアノ曲が2曲と、
プーランクの「エディット・ピアフ賛」が演奏されました。
ラヴェルは、ランドフスカがチェンバロで弾くクープランを聴くのが好きだったそうです。
だから、「クープランの墓」が作曲されたんですね。

演奏の合間には、SPレコード収集家で「SPレコード-そのかぎりない魅惑の世界」の著者・
志甫哲夫さんの貴重なSPレコード・コレクションの中から、
ランドフスカの演奏による
「ゴルトベルク変奏曲」のアリアや、スカルラッティのソナタなどを
聴かせて頂きました。
松本記念音楽迎賓館には、マニア垂涎の「クレデンザ」という蓄音器があるのです。
1939年から40年にかけて録音されたというスカルラッティのソナタL.206の途中には、
なんと!3発の高射砲の音が入っている!!!
1940年パリにドイツ軍が進軍したその時がそのまま記録された、
歴史の生き証人となっています。驚き!

後半は、F.クープランの作品が中心の構成でした。
その中の一曲、クープランの「パサカイユ」のエピソードは・・・
ドイツ軍に占拠されたパリのラジオ局が最後に流した曲が、
ランドフスカの演奏によるF.クープランの「パサカイユ」だったそうです。
「フランスの誇りを忘れるな」、とのメッセージが込められていたとのこと。

SPレコードによる、ランドフスカ自身の演奏録音とともに、
ランドフスカが弾いていたチェンバロの音そのもので、
その流れをくむ方の演奏を聴くことが出来たこと、
そして、何よりも、その時代とその音楽を愛する演奏者によって、
ランドフスカとプレイエルのモダンチェンバロの歴史的意味を、
当時の時代背景と共に語って頂けたこと・・・

この演奏会は、
ヒストリカルとモダンの違いが分からなくても、
チェンバロにぜんぜん興味がなくても、
知識として持っていたものが、目の前で「体験」になる経験が出来る、
極上のエンターテインメントだったと思います。
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by cembalonko | 2010-04-12 10:09 | 音楽 | Comments(4)

Commented by saskia1217 at 2010-04-14 19:31
ランドフスカの録音は色々残っていますが、どれもとても興味深いですよね。
私も最近、1934年のF.クープランを18曲集めた録音のサンプルをいただき、聴いていました。
ところで・・・モダン楽器に金属製のプレクトラムを持ったものがあるのですか?
革製(水牛とか)のものが多かったことは知っていたのですが、金属製ってあまりきいたことがなかったもので。
初歩的な質問でスミマセン。よろしかったら教えてください!
Commented by cembalonko at 2010-04-17 17:52
>saskiaさま

ご指摘ありがとうございました。私の記憶があやふやでした。

プレイエルのランドフスカモデルのプレクトラムは、革製、
そして、他のモダンチェンバロでは、
おっしゃる通り、革製と羽軸両方を使ったものがあります。

アメリカの製作者 J. Challisが、「楽器の安定性を求めて、
響板を含めたすべての素材に金属を使った」というような
記述を読んだ記憶があったのですが、
それも、よくよく調べてみたら、
響板、レストプランク、ブリッジとナット、ケースは金属製でしたが、
プレクトラムは初めは分厚い革で、
70年代にやはり分厚くカットしたプラスチックが使われたとのことです。
(A History of the Harpsichord Edward L. Kottick 2003年)

金属製のプレクトラム・・・どこかで聞いた記憶があるのですが、
手持ちの資料でも、確認しないまま記事にしてしまったこと、
本当に申し訳ありませんでした。
Commented by saskia1217 at 2010-04-18 01:30
cembalonkoさま
お返事をありがとうございました。
いろいろ詳しく調べてくださってありがとうございます。
私もモダンについて(ヒストリカルもですけど)楽器のことをあまり知らず、プレクトラムとしてはプラスチックや厚い革しか思い浮かばず、もしかしたらそれ以外のもあるのかしら〜と思ったもので、気軽に質問してしまいました。
でももしかしたらあるかもしれませんね。
私もどこかで見かけたらご報告します!
大変お騒がせしました。勉強になりました!
Commented by cembalonko at 2010-04-18 22:26
いえいえ、こちらも、モダンチェンバロのことって、
まだまだ知らないことだらけです。もちろん、ヒストリカルも。
楽器については、調べだすと本当に、興味が尽きないですねー
何か新ネタ(笑)見つかったら、教えてくださいませ!