調節ねじがないジャックのスタガリング対策
先日、お椀ちゃん(B.ケネディー作、ミートケモデル2段鍵盤チェンバロ)の
解体メンテナンスをしていただきました。
この楽器、弦が切れやすいのと、
スタガリング(複数の弦を同時に鳴らす時の時間差)にバラツキが出てきたことが
気になっていました。
スタガリングについて・・・
ジャックに2種類の調節ねじがついた楽器はたくさんあります。
①弦とプレクトルム<弦をはじく爪>の距離を調節できる、ジャックのボトムにつけられたもの
②プレクトルムの角度を調節するために、ジャックのトップにつけられたもの
お椀ちゃんのジャックには、ねじがついていません。
なので、スタガリングにばらつきが出た時に、調節するのが難しいと感じていました。
バラツキが出た原因を、技術者のSさんに伺ったところ、
真新しいプレクトルムは、僅かに上方向につきだしているのが標準だが、
古くなってデルリンがへたってくると、ほぼ水平になってしまうとのこと。
プレクトルムが水平になってしまうと、弦との距離が延び、結果的に音の出が遅れる。
それが原因で、スタガリングが近すぎたり遠すぎたりする場合は、
プレクトルムを新しいものに取り換えると、改善する、とのことでした。
切れやすい弦について・・・
お椀ちゃんには、なんと、他の同製作者・同モデルの楽器に比べて、
1ゲージ太い弦が張られていたことが判明しました。
つまり、最初の注文者が、
力強い音色の楽器を求めたのではないか、とのこと。
しかし、弦が太いということは、テンションが高くなり
音は力強くはなるが、香りや色が豊かでなくなるそうです。
今後、弦が切れたところから順に、
1ゲージ細い=テンションの低い弦に張り替えていくことになりました。
下鍵盤を押し下げた時に上鍵盤も一緒に下がるようにセット出来ます
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その楽器が本来持っている
最も「自然な=楽器の持つ良さが最高に発揮される」状態に
全体的に戻していけば、音は生まれ変わるのです。
今回、楽器を診ていただいて、
スタガリングやタッチの重さなど、
弾き手が楽器をコントロールする時に直接影響がある部分だけでなく、
楽器全体の響きや、音の「香り」までがよみがえったのを実感し、
あらためてSさんの技術の高さと見識の深さを間近で感じました。
楽器のメンテナンスの時って、じーっとそばで見ちゃうんですよね。
エキスパートが近くにいる時に伺っておきたいお話もたくさんあるし。
楽しいひとときでした!(Sさん、時間が長くかかって申し訳ありませんでした)
by cembalonko | 2010-12-19 08:47 | 音楽 | Comments(0)