<受胎告知>の見方 ー 完全受け売りヴァージョン!

もう2週間前のことですが、国立新美術館 「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」に行ってきました。
その日は運よく、展覧会の監修者・越川倫明教授の講演を聴くことができたのですが、
なかでも特に、これからの美術鑑賞の役に立ちそうだったのが
「受胎告知の見方」でしたので、ご紹介します。

受胎告知の主題は、新約聖書のルカによる福音書第1章第26節から第38節 に書かれている、
乙女マリアのもとに天使ガブリエルが突然現れて、神の子を身籠ることを伝える場面です。
越川先生いわく「天使が17・8歳の女の子にむかって
『あなた、もうすぐ妊娠するわよ!』と言いにくるわけです・・・」
非常に分かりやすい!イメージ沸く!(笑)

このルカによる福音書の記述の中には、
マリアの中に起こる4つの異なった感情が現れます。
1.恐れ 2.戸惑い 3.疑問 4.服従(神の御業に対しての)
「受胎告知」を鑑賞する場合には、この4つの感情のうち、
どれにフォーカスして描かれたかを見ると、
画家の意図や表現の技術が、よりよく分かる、とのことでした。

♪ ♪ ♪ ♪ ♪

さて、この講演全体の内容は、
今回の展示の目玉でもあるティツィアーノ後期の作品「受胎告知」について(カタログ番号20)でした。

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講演は次の5項目にそって進められました。

1.線的様式(linear)と絵画的様式(painterly)
  ※レオナルド・ダ・ヴィンチはlinear、ティツィアーノはpainerly
2.ヴェネツィア派の技法の展開
  ※・1470年代の油絵技法の導入・下絵から自由に変更して描く・緻密な描写から荒い筆触へ
3.ティツィアーノ晩年様式の同時代人の評価
  ※ヴァザーリはじめ、おおむね批判的
   (筆触が見えるものは完成しているとみなされなかった)
4.受胎告知の主題と表現の伝統  
5.再びティツィアーノ「受胎告知」を見る

ティツィアーノの「受胎告知」には、他にも興味深いお話がありました。
この絵でマリアと天使のポーズを見ると、マリアは右手を上げ、頭にかけたベールをあげています。
一方、天使は胸の前で両腕を交差させて合わせています。

この絵から遡ること30年(?記憶が曖昧)ほど前に、
スペイン宮廷のために、彼が同じ主題で書いた絵がありました。
(原画は散逸、その絵をもとにした版画が現存)
その絵の場合、構図はほぼ同じなのですが、
天使とマリアのポーズが入れ替わっているとのことです。
天使は腕を上げて、高らかに神の御業を伝え、
マリアは胸の前で腕を合せている。
マリアが胸の前で腕を合せた場合、
これは「服従」の感情を表している、とのことです。

さて、今回展示されている「受胎告知」をX線投影したところ、
この絵も、もともとは天使は腕を上げ、
マリアは胸の前で腕を合せる、というポーズで描かれていました。
ところが、製作途中でティツィアーノはこのポーズを変更し、
マリアが腕を上げ天使が腕を組むポーズに描き直したということです。

その意図は、どこにあったのでしょうか。
恐れ・戸惑いが起こる前の「はっ」とした一瞬を描きたかったのか・・・
天使の言葉を傾聴して自身の運命を受け入れつつある瞬間を描きたかったのか・・・
越川先生いわく、「右側の書架に向かって本を読んでいたマリアが
左側に振り向いた瞬間であり、
日常から非現実の世界へといざなわれる瞬間」とのことでした。
見る人それぞれの感性をかきたてられる作品です。

この「受胎告知」に会えるのは、東京では10月10日までです。



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by cembalonko | 2016-09-03 23:22 | 知的好奇心 | Comments(1)

Commented by desire_san at 2016-10-02 14:08
こんにちは、
私も「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展を見てきましたので、ティツィアーノの大作『受胎告知』を見た時の感動がよみがえって、大変うれしい気持ちで読ませて抱きました。ティツィアーノの大作『受胎告知』を間近で見ることができ他のも素晴らしい体験でしたが、日本では見ることができなかった初期ヴェネツィア派の巨匠、ジョヴァンニ・ベッリーニの作品の魅力を体感できて良かったと思いました。

「ヴェネツィア・ルネサンスの巨匠たち」展から代表的な傑作につて詳しく知らべた結果を整理し、ヴェネツィア・ルネサンス芸術の本質について考察してみました。読んでいただけると嬉しいです。ご意見・ご感想などコメントをいただけると感謝いたします。